ダニといえば「マダニ」。活動が盛んな時期は4〜10月です。
また、夏よりも少ないものの、冬でも被害報告があります。
日本では47種類のマダニが存在し、有名な種類が「フタトゲチマダニ」「シェルツェマダニ」「ヤマトマダニ」「タカサゴキララマダニ」などです。
毎年、テレビやネットでニュースや記事に取り上げられていますが、なぜ取り上げられているのかご存知ですか?
今回、ダニ専門機関である日革研究所が、「マダニ」の感染症の危険性やマダニの対策方法について、わかりやすくお伝えします。
1. マダニが危険な理由とは?
マダニが危険な理由・・・それは、「感染症」です。
マダニは鋏角で皮膚を裂いた後、口下片を差し込んで吸血します。その吸血時に、唾液を分泌するのですが、
その分泌物の中に細菌やウイルスが含まれていることがあり、
その細菌やウイルスが感染症を引き起こします。
マダニが媒介する感染症において、細菌が原因であれば抗生物質による治療、
ウイルスが原因であれば対処療法(特異的な治療方法なし)になります。
マダニによる感染症全体の年間被害数は1,000件程度ですが、
感染症の種類によっては10%以上の致死率を示す場合もあるので注意が必要です。
また、被害に遭われる方の多くが高齢者(60歳以上)になります。
2. マダニが媒介する感染症の種類
① SFTS感染症(重症熱性血小板減少症候群)
■ 比較的に新しい感染症(2013年1月に国内初症例)
■ ブニヤウイルス科 フレボウイルス属(ウイルス)
■ 致死率が6.3〜30%と高い
■ 年間の被害人数は80人程度
SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによる
ダニ媒介性感染症で、比較的に新しい感染症です。2013年1月に国内で海外渡航歴のない方がSFTSに罹患していたことが
初めて報告され、それ以降SFTS患者が確認されるようになりました。
SFTSが怖い理由の一つはその致死率で、幅はありますが6.3〜30%と言われています。また、感染者の体液や血液と接触することで、
人から人への感染も報告されています。年間で80人くらいの方が被害に遭われているようです。
現時点でSFTSに有効な抗ウイルス薬はなく、対処療法(症状に合わせた治療)になります。
② 日本紅斑熱
■ 1984年に国内初症例
■ リケッチア科 リケッチア属(グラム陰性細菌)
■ 致死率が1〜2%(高い年で約10%)
■ 年間の被害人数は300人程度(増加傾向)
日本紅斑熱リケッチアとよばれるグラム陰性細菌による感染症です。984 年に患者が初めて報告され、2006年までは
年間30~60例で推移していましたが、その後増加傾向となり, 2017年には最多の337例が報告されています。
感染者数は、2019年までで3108名、死者は44例あり、致命率は1.4%程度になります。
細菌による感染症のため、抗生物質を使って治療を行います。
③ ダニ媒介脳炎
■ 1993年に国内初症例
■ フラビウイルス科 フラビウイルス属(ウイルス)
■ 致死率が20%以上(生残者の30~40%に後遺症)
■ 現在までで5例(すべて北海道)
フラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるダニ媒介脳炎ウイルスによる感染症で、その中でも「ヨーロッパ亜型」
「極東亜型」「シベリア亜型」に分類されます。特に怖いのは「極東亜型」で、致死率が20%以上、生残者の30~40%に
神経学的後遺症がみられるといわれています。
しかし、日本では、1993年に北海道において初めて発生が確認され、2018年6月までに計5例が報告されているのみです
(全て北海道)。現在、その動向に注視されています。
日本ではダニ媒介脳炎に特化した治療はありません。
④ ライム病
■ 1986年に国内初症例
■ スピロヘータ科 ボレリア属(グラム陰性細菌)
■ 20年間で231例(1999年-2018年)
野生のマダニ科マダニ属(Ixodes)のダニによって媒介される人獣共通の細菌(スピロヘータ)による感染症です。
日本ではシュルツェマダニの刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどになります。
1986年に初のライム病患者が報告されて以来、感染症法施行後の報告数は、1999年から2018年までの20年間で231例である。
主に本州中部以北(特に北海道)で患者が報告されており、北海道以外の地域での届出例の多くは、北海道や海外
(主にアメリカ、欧州諸国)での感染例になります。
細菌による感染症のため、抗生物質を使って治療を行います。
⑤ ツツガムシ病
■ 1950年に国内初症例
■ リケッチア科 リケッチア属(グラム陰性細菌)
■ 年間で400-500人程度
ツツガムシ病はOrientia tsutsugamushi を起因菌とするリケッチア症であり、ダニの一種ツツガムシによって
媒介されます。ちなみに、ツツガムシは吸血ではなく、体液(組織液)を吸うダニです。また、日本紅斑熱リケッチアとは異なる
種類のリケッチアによる感染症です。
1950年に伝染病予防法によるツツガムシ病の届け出が始まり、1999年(4〜12月)には588人、2000年(1〜12月)には
急増して754人が報告されており、年間400-500人程度が被害を受けています。
細菌による感染症のため、抗生物質を使って治療を行いますが、毎年数人の死亡例が報告されています。
3. マダニに噛まれないための対策
マダニに噛まれる被害時期は4月から10月にかけて多く、ハイキングや農作業など山や草むらでの活動の際に注意が必要です。
そこで、ダニに噛まれないためのポイントをわかりやすくお伝えします。
■ 肌の露出を少なくする
目的). マダニに噛まれる場所を減らす
例). 帽子や手袋の着用、首にタオルを装着 など
■ 長袖・長ズボン、登山用スパッツを着用する、足を完全に覆う靴を履く
目的). 衣類内へのマダニの侵入を防ぐ
例). シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる
■ 明るい色の服を着る
目的). 服に着いたマダニを認識する
2013年に、マダニに対する忌避剤が認可されています。それが、「ディート」と「イカリジン」
です。ちなみに、忌避効果は確認されているものの、作用機序については分かっていません。
また、濃度によってその効果や持続時間が変わるので、過信せずに、衣類装着などの
物理的な防護手段と併用してください。
また、こうした対策をしても、マダニの衣服内への侵入を100%防げるわけではありません。そのため、帰宅する際や帰宅後は
下記の点に気をつけましょう。
■ 家の中にダニを持ち込まない
目的). 家族への被害を防ぐ
例). 帰路につく前や家に着く前に、着用していた服にマダニがついていないか確認する
■ 入浴時にマダニに噛まれていないかを確認する
目的). ダニ媒介感染症の発症リスクや悪化リスクを少しでも軽減する
また、最近は室内でペットを飼われる家庭が増えました。そのため、ペットの散歩時に マダニが付着し、自宅まで持って帰ってしまうこともあるので、自宅に入る前にペットにマダニがくっついていないか確認 しましょう。
4. マダニに噛まれていたら
もし、マダニに噛まれていることに気がついたら、自分で無理に引き抜いてはいけません。
自分で引き抜いた際にマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、
マダニの体液を逆流させてしまうおそれがあるためです。
そのため、医療機関(皮膚科など)で処置をしてもらいましょう。
また、マダニに噛まれた後は、数週間程度は体調の変化に気をつけましょう。
感染症の種類で異なりますが、数日〜2週間が目安です。
発熱などの症状が見られた場合は、医療機関で受診してください。
マダニ媒介感染症だけに限った話ではありませんが、治療において何よりも大切なのは早期の発見です。
そして、治療しないためにも(感染症にならないためにも)、予防が大切なのです。
5. まとめ
マダニが危険な理由は「感染症」で、場合によっては命に関わります。
そのため、被害報告が多い春〜秋(特に夏)にかけては、衣類の着用方法や忌避剤でマダニに噛まれないための予防が大切です。
ただ、刺されるリスクを軽減するためとはいえ、夏の重ね着は熱中症になるリスクを伴うため、衣類の種類(スパッツなど)
や機能性素材(透湿速乾など)で工夫しましょう。
また、家に持ち込まないために外で衣類にマダニがいないかを確認したり、入浴時にマダニに噛まれていないかを確認することも、
二次的な被害を防ぐために大切です。
細菌によるダニ媒介感染症では抗生物質による治療方法はあるものの、場合によって重篤化することもあります。
また、ウイルスによるダニ媒介感染症は対処療法になるため、何よりもマダニに噛まれないことが大切です。
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【この記事の参考元(2020年11月9日に利用)】
厚生労働省ホームページ
厚生労働省国立感染研究所ホームページ